1. 広報が「戦略投資」にならない日本企業の構造
PRは企業の成長を支える重要な機能である──これはもはや異論のない認識です。それでも、多くの企業で広報予算は「どこから出すか」「削るならどこか」の消去法で語られがちです。
この背景には、「広報が経営投資になっていない」構造課題があります。予算編成における多くの広報機能は、販促や採用、IRなどの他部門の末端業務と捉えられやすく、自らの業務を“部門成果”でしか語れない立場に置かれています。
しかし、本来の広報は部門横断の「組織通訳」であり、経営構想を社会文脈に翻訳する職能です。言い換えれば、PRの真価は「外に出す前」に社内で発揮されるべきなのです。
2. 広報の価値は“成果”ではなく“意味変換”にある
ではなぜ、多くの広報活動が評価されにくいのでしょうか。
それは「何を達成したか」ではなく、「どう意味づけたか」が正しく伝わらないためです。
広告のように明確なCV(コンバージョン)を出しにくいPRは、結果だけで評価されると常に不利になります。だからこそ、本質は「意味を編集する力」にあります。
企業の思想や社会課題との接点を発見し、それを読み手が共感できる文脈で翻訳する。この編集機能が、広報にしか担えない独自価値です。
嶋浩一郎氏が言う「PRとは、“あたりまえ”をつくること」という言葉も、本質的にはこの意味変換による規範の形成を指しています。広告が「まだ知られていないことを魅せる」なら、PRは「すでにある価値を別の角度で見せ直す」営みなのです。
3. 予算を創出するには、社内設計を変えよ
PRの意義を理解してもらえたとしても、現場では予算が降りない──この断絶を解くカギは、“社内における広報の信用設計”にあります。
単にKPIやPVを提示するだけでは、経営層の意思決定を動かせません。
必要なのは、「この広報活動がどの事業課題に連動しているか」という戦略的接続の証明です。
そのために、以下の3つの条件が必要です:
● 戦略補助線の設計
経営計画(中計や事業戦略)と広報活動がどう交差しているのかを可視化する。たとえば、M&A、新市場参入、リブランディングなど、経営アジェンダを意識した「共通言語」を持つこと。
● 成果連結のストーリー化
PRがどう営業や採用、ブランド好意度と接続するかを図解や言語化で提示。SOV(シェア・オブ・ボイス)やウェビナー参加率など、“相関性が語れる指標”を中心に据える。
● 社内信用の蓄積
定例報告資料、Slack発信、部署横断での共有などを通じて、広報が“戦略を読める存在”であると認識させる。意思決定層が頼る「対話パートナー」になることが最終ゴールです。
このように、「成果を示す」のではなく「つながりを設計する力」が、予算創出の前提になります。
4. 変化を牽引する広報が持つべき視座
いま、広報は発信者ではなく組織を言語化する編集者としての進化が求められています。
とくに、PRを「外に出す仕事」と捉えているうちは、予算の壁を越えることは難しい。
重要なのは、まず社内の対話回路をつくり、経営言語と広報言語の翻訳装置になることです。
最近では、PR界隈において「事業構想との接続を自ら設計しにいく」広報が台頭しています。
たとえばビルコムのように、PRパーセプション調査をベースに市場ポジションを言語化し、広報活動の意味付けを戦略的に設計するケースが増えています。
また、現場視点での強調も欠かせません。
単発の取材獲得に一喜一憂せず、経営と社会の「あいだ」に位置する課題設定を扱う──この視座の転換が、組織の構造を変え、広報が本質的な役割を担える環境を生みます。
まとめ|広報は、経営の“文脈設計者”になれるか
広報予算を獲得するというのは、単なる「金額の確保」ではありません。
それは、企業にとって「物語の設計をどこに委ねるか」という意思決定の象徴です。
外部からの評価だけでなく、社内から信頼される構造をいかに築けるか──その設計力こそが、次のPRの価値提案となります。
発信の手段やチャネル論に惑わされず、いま目の前にある企業の構造を“文脈”から変えていく。
その第一歩として、「予算をどう獲得するか」ではなく、「なぜ自分たちが意味を翻訳するのか」を問い直すことから始めましょう。

