数字だけでは語りきれないBtoBの広報
調査PRと聞いて、多くの方が思い浮かべるのは、大規模な生活者アンケートや、ランキング形式の話題性のある結果でしょう。
実際、BtoC領域では消費者の行動傾向やニーズを可視化する手法として長らく親しまれてきました。
一方で、BtoB企業ではその活用が限定的です。理由の一つに、「定量的な調査が難しい」という事情があります。
たとえば、対象となる業界がニッチだったり、役職者へのアクセスが限定されたりすると、サンプル数を担保することが難しくなります。数字の説得力が担保しづらい状況では、調査自体が実施されないという選択も珍しくありません。
しかしながら、こうした制約を前提としたうえで、あえて調査を設計することには大きな意味があります。
BtoBの広報では、“数値を示す”こと以上に、「どのような仮説を立て、どう社会と向き合っているか」を表明することが求められているからです。
BtoBにおける“問い”の意味──視座を伝える手段としての調査
Malenでは、BtoB広報における調査の役割を「視座を社会に共有する装置」と捉えています。
たとえば、次のような仮説に基づく設問設計は、調査結果そのものよりも、その背後にある思考や問題意識にこそ価値があります。
- 「中堅企業のDX推進、現場主導と経営主導のどちらが成果を上げているか?」
- 「サステナビリティ経営は、経営層と現場でどう受け止められているか?」
- 「BtoB営業における“信頼形成”の決め手は、担当者の属人的要素なのか、仕組みなのか?」
こうした問いに答えることは、単なるマーケット調査ではありません。
自社が持つ業界知見や未来への見立てをもとに、他者と共有可能な形式で提示する行為──すなわち、企業のスタンスを社会に問う広報活動といえます。
成果を求めすぎないことが、成果に近づける
数字を出すこと自体が目的化してしまうと、調査は単なる施策の一つにとどまり、継続的なブランド構築には寄与しません。
とくにBtoB領域では、明確な態度や価値観を持った企業に対して、顧客やメディア、あるいはリクルーターが関心を寄せる傾向があります。
たとえばMalenが支援したある事例では、営業DXの変遷をテーマに、経営企画・営業推進担当者に定性調査を実施しました。
そこで明らかになったのは、単なるツールの導入ではなく、現場と経営の対話設計が改革の鍵であるという知見です。
この結果はホワイトペーパーとしても展開され、「企業の考え方に共感した」という声が商談の接点になりました。
このように、調査は反応を得るための仕掛けである以上に、思考の透明性を担保する場にもなり得るのです。
Malenが大切にする“設計としてのPR”
BtoB企業にとって、調査とは単なる情報収集や話題づくりではなく、企業の視座を伝える行為そのものです。
どんな問いを立て、何を明らかにしようとするのか──この設計段階で企業の姿勢や問題意識が自然と表出します。
Malenでは、この“問いの設計”こそが広報の要だと考えています。
世の中で何が起きているかを伝えるのではなく、自社が何に注目し、どんな未来像に向けて動いているのかを可視化する。
調査という形式を通じて、企業の論点を社会に提示し、議論の起点をつくる。
それが、調査PRが担える本来の役割です。
さらに、調査の結果を単体で発信するのではなく、ホワイトペーパー、事例取材、経営層の発信、メディアアプローチと一体化させた展開が不可欠です。
点ではなく、面として伝える。戦略の一部として調査を捉えたとき、初めて「調査が広報設計に組み込まれている」と言えます。
Malenは、こうした設計思想をもって、クライアント企業の調査PRに伴走しています。
戦略と連動し、ブランドの信頼を積み重ねていく――その“設計としてのPR”こそが、BtoB広報に求められる次のスタンダードだと私たちは考えています。
まとめ:BtoBの広報は、思考を共有する構造へ
本連載では、3回にわたり調査PRの本質と活用の現在地を辿ってきました。
- 第1回では、なぜ調査PRが支持されてきたのかを歴史的背景から振り返り、
- 第2回では、形式疲れを起こしている現状とその課題を、メディアと企業双方の視点から整理しました。
- そして今回の第3回では、BtoB広報においてこそ、調査という手法が“視座の提示”として再評価される意義を見出しました。
問いの設計は、企業の言語化力と論理構築力の表れでもあります。
調査PRを単なる定量施策と捉えるのではなく、企業の思想や課題感を社会に共有する設計図として捉え直すことで、広報はもっと豊かに、意味深くなっていく。
Malenは、そうした広報活動を共に構築するパートナーでありたいと考えています。