【連載#3-2】調査PRはなぜ“効かなくなった”のか──形式疲れと信頼低下の構造

「また調査ネタか」と思われる企画の共通点

企業の広報活動において、調査PRは今でも頻繁に採用されています。しかし、メディアの反応は以前と比べて鈍くなってきているのが現実です。
いくつかの編集部では、すでに「調査ネタはなるべく外す」方針を打ち出しているところもあるほどです。

なぜ、こうした変化が起きているのでしょうか。
原因は一言でいえば、“形式疲れ”にあります。

  • 記事化を狙った“わかりやす過ぎる設問”
  • 想定通りの結果しか出てこない調査設計
  • SNSバズを狙った表層的な設問構成
  • そもそも「調査をする意味」が読み取れない

これらはすべて、「数字という形式」に頼りすぎるあまり、企画としての筋が弱くなっている例です。
こうした形式的な調査は、メディアだけでなく読者にとっても「またこのパターンか」と映り、信頼や共感を得にくくなっています。


成果を出せなかった「調査PR」の実例

たとえば、ある消費財ブランドが「20代女性の美容意識に関する調査」を実施しました。
しかし、設問はすべて想定内の内容で、回答結果も「9割が美容に気をつかっている」「6割がSNSで情報を集めている」といった、ありがちなデータに留まりました。

その結果:

  • メディア側からは「既視感が強い」と掲載を見送られ
  • SNSでも特段の反応がなく
  • 社内からも「調査した意味があったのか?」という疑念が出た

これは、「やらないよりマシ」というテンションで取り組んだ調査が、かえってブランドへの関心を下げてしまうという悪例となったケースです。


なぜそうした事態が起きるのか──「問い」の不在と仮説設計の浅さ

こうした失敗の根本には、「問い」が存在していないことが多くあります。
つまり、「何を明らかにしたいのか?」「この調査で何を社会に問いたいのか?」という仮説が、そもそも設計されていないのです。

多くの場合:

  • 結論を最初に決めておいて、それに沿った設問をつくる
  • 世の中でバズっているテーマに“便乗”する
  • 数字が出そうな問いだけを並べる

このような調査では、たとえ数字が出たとしても、それはメッセージを補強する力を持ちません。むしろ、その企業やブランドの“視点の浅さ”が露呈するという逆効果にもなりかねません。


一方、「問いのある調査」は今も強い

とはいえ、すべての調査PRが機能しなくなっているわけではありません。
むしろ、よく設計された調査PRは、今なお強いインパクトを持ちます。

ポイントは、「問いが社会と接続しているかどうか」です。

たとえば:

  • サステナビリティに関するBtoB企業の意識調査 → 法制度や取引慣行との接続
  • 女性のキャリア観に関する調査 → 雇用政策や働き方の議論と重なる
  • 地方移住と仕事のあり方に関する調査 → 国の政策動向と接点を持つ

このように、メディアが取り上げたくなる調査には、明確な仮説と、社会的な“問い”があります。


一長一短──「使える調査」と「使いづらい調査」の分岐点

ここで改めて確認しておきたいのは、調査PRには一長一短があるということです。

有効に働く場合一般論で終わる場合
社会課題や制度との接点がある流行や話題に乗っただけ
ブランドの思想や立場と接続している数字に意味づけがない
仮説が明確で、検証可能な構造がある調査すること自体が目的化している

このように、「調査のための調査」ではなく、「問いの可視化」「仮説の検証」として企画されたものこそ、今のメディア環境でも通用する調査PRとして成立します。


次回につながる問い:「BtoB広報にこそ、調査が効く」は本当か?

この連載の最終回では、調査PRの新たな可能性として、BtoB企業における活用を掘り下げます。

一見すると、BtoBと調査PRは相性が悪いように思えるかもしれません。
しかし、定性調査×仮説立てを通じて、“企業の問い”を社会に接続していく構造は、むしろBtoB広報にこそフィットする可能性を秘めています。

次回は、調査PRを「ブランドの思想を可視化する装置」として捉え直し、その本質と実践例を探っていきます。