【連載#3-1】調査PRの現在地──「根拠のある広報」が支持されてきた理由

「この主張、どこまで信用できるのか?」

広報やPRの現場で必ず問われる視点があります。
「その話、どこまで本当なんですか?」
「それを裏付ける事実はありますか?」
企業の姿勢や取り組みを社会に発信する際、ただ言いたいことを並べても伝わりません。“根拠”と“公共性”の両立が求められます。
単なる企業目線の言説ではなく、「なぜ、今それを言うのか?」「それは誰にとっての課題なのか?」という構造が伴ってこそ、社会との対話が成立します。
このような文脈の中で、長年支持されてきた手法が「調査PR」です。


数字で可視化する「空気感」──なぜ支持されてきたのか

「20代女性の7割が○○に不安を感じている」「全国の会社員の6割が○○を望んでいる」
こうした生活者の実感を“数値化”して可視化することで、企業の主張に客観性を与えるのが、調査PRの基本構造です。

調査PRは、メディアにとっても扱いやすく、読者との接点をつくりやすい。特にBtoC領域では、「社会の空気感を定量化する手段」として非常に効果的でした。
加えて、広報担当者にとっても調査PRは“安心できる手法”でした。調査という形式に則れば、社内での説明が通しやすく、発信の起点としても着手しやすい。導入ハードルの低さと効果の高さが、長らく支持されてきた理由といえるでしょう。


BtoCでの活用が定着した背景──商品価値と“社会の声”の接続

化粧品・食品・生活用品などのBtoC企業にとって、調査PRはプロモーションと自然に接続できる手法でした。

「◯◯に関する意識調査」として生活者の声を取り上げることで、商品紹介と一体化した広報活動が可能になります。実際、多くのメディアにとっても「今、人々は何に関心を寄せているのか?」という切り口は記事構成に向いており、企業と社会をつなぐ“翻訳装置”としての機能が期待されてきました。

また、得られたデータは、広告素材やLPにも展開可能で、PRとマーケティングの融合を促す手法としても重宝されてきたのです。


なぜ「安心できる手法」として定着したのか?

広報業務では、社内外の“納得感”を担保することが求められます。調査PRはその両立が可能な点で、広報担当者の実務を支えてきました。

  • 社内には、定量データによって説明可能な「ファクト」を提供
  • 社外には、ニュース価値や企画のフックとなる「数字」を提示

とくに一人広報体制のような企業においては、こうした汎用性と説明性の高さが、実行可能な広報施策の選択肢として大きな価値を持っていたといえます。


とはいえ──“形式だけ”では伝わらなくなってきている

一方で、こうした定番手法は、飽和や形骸化とも隣り合わせです。

  • 調査をすること自体が目的化している
  • 仮説や問いが浅く、数字が浮いて見える
  • メディアから「またこの手の調査か」と受け止められる

このように、設計思想のない調査PRは、逆に企画を通りにくくしてしまうというジレンマも生まれています。
形式だけで伝えようとすれば、かえって“調査のための調査”になってしまい、社会との接続も、企業の思考の深度も、ぼやけてしまうのです。


次回への問い:「良い調査PR」とは何か?

ここまで見てきたように、調査PRは「数字による可視化」「説明可能性の担保」「ニュース価値の創出」など、多くの利点を持つ手法です。
しかし、だからこそ使い方には注意が必要であり、“問いの設計”や“背景仮説の精度”が成果を分ける分岐点になっているのが現実です。

次回は、調査PRが批判されるようになった背景や、うまくいく調査PRとうまくいかない調査PRの違いについて、より深く掘り下げていきます。

「何を問うのか」「なぜそれを問うのか」──
調査という行為を、もう一度、広報戦略の中で捉え直す視点を一緒に考えていきましょう。