「このサービス、子どもに合うかもしれない。でも…正直よく分からない」
これは、あるSTEM教材を導入検討していた保護者のリアルな声です。
今や教育サービスは、“価格”や“知名度”だけでは選ばれません。
選ぶ側の多くは、「納得できるか」「信頼できるか」を重要視しています。
一方、発信する側である教育機関やEdTech企業は、
「分かりやすく伝えたい」けれど「専門性も担保しなければいけない」──というジレンマを抱えています。
本記事では、“軽く見せず、難しくなりすぎず”伝えるための設計視点を深掘りします。
保護者・教育者・行政など多様な相手に届く、信頼される広報とはどのようなものか?
そのヒントを実例とともに探っていきます。
1. 「わかりやすく伝える」が、誤解を生むとき
教育の広報は“分かりやすく”伝えることが重視されます。
しかし、これが“誤解”を生む要因にもなるのです。
たとえば、「非認知能力を育てる教材」と掲げたあるプロダクト。
キャッチコピーは親しみやすく、ビジュアルもやさしいトーンで統一されていました。
結果、「楽しく遊べるおもちゃ」と誤解され、保護者や教育関係者から“軽い印象”を持たれてしまったのです。
このケースで問題だったのは、
本来専門性の高い教育観が、表現上“軽んじられて”しまったこと。
教育業界では、発信の“言葉選び”が信頼や認知に直結します。
2. 専門性は「隠す」のではなく、“選んで開示する”
では、専門性を維持しながら親しみやすく伝えるにはどうすればいいのか?
答えは、「全部伝える」のではなく、“伝えるべきことを選ぶ”設計にあります。
たとえば:
- トップページでは「やさしい言葉」で概要を説明
- 興味を持った人には「詳細ページで深く学べる構造」に誘導
- 質問しやすい環境(FAQ/カスタマーサポート)が整っている
こうした情報の“段階設計”=情報アーキテクチャの設計が、誤認識を防ぎながら納得感を生むカギです。
3. 対象別に「語り方のフォーマット」を切り替える
教育業界では、伝える相手によって伝え方を変える必要があります。
生徒、保護者、教職員、行政、パートナー企業……。
たとえば「探究学習」という言葉。
- 保護者には:「子どもが“なぜ”を大切にできる学びです」
- 教職員には:「教科横断的なテーマで、自ら調べ考える力を育てます」
- 行政には:「キャリア教育にも連動した非認知能力の育成施策です」
同じコンセプトでも、“語りのフォーマット”が違うだけで伝わり方はまったく変わります。
こうした翻訳力は、広報の重要な役割のひとつです。
4. 親世代の“不安”を先回りする文章設計
子どもに教育サービスを与えるのは、主に親です。
その親が持つ典型的な不安は:
- 「うちの子でもついていける?」
- 「成績はどう変わる?」
- 「先生がフォローしてくれるの?」
これらの懸念を、「よくあるご質問」に任せるのではなく、
最初の発信から“肯定的にすくい上げる”ライティングが信頼につながります。
例:
✖「〇〇を身につけられます!」
◎「〇〇が苦手なお子さまでも、無理なく取り組めるよう設計しています」
このように、「懸念ごと」に言葉を当てていくことが、不安を信頼に変える第一歩です。
5. “説明しすぎない”デザインと文章が信頼を生む
すべてを語ろうとすると、逆に読む側の意欲が下がります。
特に教育サービスの場合、「自分で確かめたい」「相談してみたい」と思ってもらえる余白があることが、問い合わせや導入につながります。
たとえば:
- 「開発の背景」ページで開発者の声を掲載する
- 「体験者の声」をストーリーとして紹介する
- 動画やイラストを使って言葉の圧を軽減する
説明の量ではなく、“信頼のにじみ方”が、問い合わせ率を左右するのです。
6. 実例:親しみやすさと専門性を両立した教育ブランド
いくつかの教育ブランドは、この両立に成功しています。
- 学研:note記事で「開発担当者の想い」を連載。理念とプロダクトの橋渡し
- Z会:CMやWebサイトで“学びを支える親”に語りかける構成
- 海外の非営利EdTech(例:Khan Academy):理念を短く明快に打ち出し、深掘りはYouTubeやPDFに展開
共通しているのは、「伝える役割」を一つの手段に任せず、メディアを分散させていること。
noteは理念を語り、SNSは共感を呼び、LPで具体化する──その設計が広報とブランドの信頼感を支えています。
まとめ
教育業界での発信において、“伝えすぎる”ことは逆効果になることがあります。
大切なのは、誰に、何を、どの深さで届けるかを“設計すること”。
- 親に向けては「不安を見越したやさしさ」
- 教員には「教育観に刺さる言語化」
- 子どもには「見た瞬間にわかる楽しさ」
それぞれに合わせた「語りの翻訳」が、ブランドの信頼と共感を生みます。
次回は、教育広報の集大成ともいえるテーマ──
「“未来への投資”としての教育事業をどう語るか?」
社会価値としての教育の発信、ブランディングの未来像を深掘りしていきます。
「教育広報は、“何を言うか”より“どう伝えるか”。
Malenでは、理念の言語化や発信の翻訳設計を通じて、
教育業界の広報課題を丁寧にひもといています。
発信に迷ったとき、まずは壁打ちからご相談ください。