【業界別 / 教育】“信頼される教育ブランド”は何を発信しているのか?―― 認知よりも“安心”が選ばれる時代の、広報の視点転換(1/3)

「広報として何かを発信したい。でも社内では“事実だけでいい”“目立たなくていい”という空気が根強い」
「今のままでは限界がある気がする。けれど、どこから変えればいいのか分からない」

そんな想いを抱えている教育業界の広報担当者の声を、私たちはこれまで何度も聞いてきました。

少子化・労働力不足が進む中、教育は“子どもを育てる”領域を越えて、
高齢者のリスキリングや、STEM教育による次世代育成など、社会課題の解決にも直結する分野へと広がっています。

こうした状況の中で、教育に関わる企業や機関が“どう発信するか”は、単なるPR活動ではなく、社会との接続の質を問われる戦略的行為になってきています。

今回は、広報担当者が「何を語り、どんな姿勢を示すべきか」に焦点をあて、
信頼される教育ブランドが実践している視点を紐解きます。


【この記事でわかること】

  • なぜ今、教育業界で広報・ブランディングが重要視されているのか
  • 教育業界における“信頼”という評価軸の正体
  • ステークホルダーの多層構造をふまえた広報の「翻訳力」
  • STEM教育やリスキリングなど現代的教育トピックとのつながり
  • 「姿勢を語る広報」がもたらすブランドの信頼構築

教育に関わるサービスや企業は、「有名か」「実績があるか」で評価されがちです。
しかし現実には、保護者・教職員・地域社会など多くの関係者が、
“信頼できそうかどうか”という直感的な安心感で判断しています。

特に、STEM教育や探究型学習といった新しい学びの形が普及する中、
「なぜその学びが必要か」「どういう背景で導入されているか」を、自分たちの言葉で語れるかどうかが選ばれる要因となります。

一見“地味”に見える理念や姿勢の発信が、最も深く共感され、広がっていくのが教育業界です。


教育業界の広報には、他業種にはない特徴があります。
それは、伝える相手が非常に多層的であるということです。

  • 子ども・生徒(BtoC)
  • 保護者(BtoC)
  • 学校や教育機関、行政(BtoB/BtoG)
  • パートナー企業やNPO(BtoB)
  • 社内(BtoE)

この構造がある限り、ひとつのメッセージをそのまま全員に届けることはできません。

たとえば、「未来の学びを支える」という1つの理念を:

  • 保護者には「安心して任せられる教育観」
  • 行政には「地域や国の方針とどうつながるのか」
  • 社内には「私たちがこの仕事に向き合う理由」

というように、翻訳して届ける視点が求められます。

また、最近では「教育は若年層だけのものではない」という流れも強まっています。
高齢者のリスキリングや、「人生100年時代の学び直し」が社会全体のテーマとなる中で、
“伝えるべき相手”もますます多様化しているのです。


一つの好例があります。
ある中小EdTech企業は、大きな広告投資はせず、毎月noteで「教育サービスづくりの舞台裏」や「開発者が考えていること」を発信し続けています。
noteは決してバズることはありませんが、そこから資料請求や問い合わせにつながることが非常に多いそうです。

理由は明確です。
「何をしているか」ではなく「なぜそうしているのか」が丁寧に語られているから。

この企業は、STEM教材の開発にあたって「都市部と地方の教育格差をどう埋めるか」という社会的課題と正面から向き合っており、
“理念”と“事業内容”が言葉として一致していることが、受け手に伝わっています。

教育分野の広報においては、
「どれだけ語ったか」ではなく、「どれだけ本気で考えているか」が伝わるかどうかが鍵になります。


教育は、単なるビジネス領域ではなく、社会そのものと直結したテーマです。
だからこそ、広報が担う意味は他業界よりもずっと重いのかもしれません。

  • 実績や知名度より、“共感される理念”
  • 派手なキャンペーンより、“誠実な語り”
  • 一方通行の発信より、“翻訳力のある対話”

教育業界の広報は、発信の数より「姿勢の質」で信頼を育てる場であるべきです。

次回は、
「教育コンテンツの“専門性と親しみやすさ”は両立できるか?」
という問いを起点に、より実践的な発信の工夫やメッセージ設計について掘り下げていきます。